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CMの研究

第15回 パナソニック・ルミックスGH1のCMには
日本映画の巨匠のテイストが満ちている

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 年に数本くらいは心に残るCMに出あう。それはあまりにもおかしかったり、美しかったりとパターンはさまざまだが共通するのはインパクトの強さだ。そしてそれは饒舌な出演者が商品を連呼することとかけ離れた、静かな世界が作り上げられた場合もある。

 そんなCMにまた出会った。5月29日からオン・エアされているパナソニックのデジタル一眼ムービー・ルミックスGH1のものだ。この商品はすでにソフトバンクのホワイト家族の母親役でおなじみの樋口可南子がにぎやかなCMに出演しているが、今度のものは内容がガラッと違っている。娘を嫁に出した父親の内面の物語だ。30秒と15秒のバージョンがあり、30秒のほうは部屋で大型テレビを見ている男性に妻が「行ってしまいましたね」と声をかける。画面では角隠しをした娘が泣きながら父親に感謝の言葉を述べているところだ。そして次のシーンでは結婚式場の外で縁台のようなイスに座っている白無垢の娘に「ムービー撮るからこちらを向いて」と父がカメラを構えると、娘はたちまち泣き出すというものだ。15秒のものは、まず野外のシーンの次に、家でひとり大画面テレビで泣きながら感謝の言葉を話す娘の映像を見ている父の姿が出てくる。
 このルミックスGH1は外見はデジタル一眼そのものだが、最長2時間ムービー撮影できるというデジカメと、デジタルビデオカメラの機能を合わせたものだ。そしてパナソニックはこの大画面テレビ「ビエラ」とつないで見ることを勧めている。

 ところでこのCMのどこが心に残ったかというと、娘を嫁に出す父の気持ちをたった一言のセリフもなく実にうまく映像にしていることだ。特に、父親役の人は有名俳優とかではないが、パッと見ると故・芦田伸介のような雰囲気を持っている。芦田伸介といえば黙っていても何かを訴えるような俳優だったが、この父親役の男性も無言のうちに父親としての満足感と寂しさを実に見事に表している。たくさんの人を何度もオーディションして選んだことだろうと思う。つい感情移入して、「幼い娘の手をつないで遊園地にいったんだろうな」とか「銀塩写真の時代からたくさん娘の写真を撮ったんだろうな」「父は単身赴任の時期もあったかな」なんて、いろいろな想像が広がってしまう。想像が広がるというCMはなかなかないものだ。そして、日本映画ファンならこのCMを見てすぐピンとくるはずだが、まさに「小津安二郎」のテイストに満ちているのがこの作品だ。「麦秋」や「東京物語」で映画監督としてあまりにも有名な小津監督。そして、代表作のひとつ「晩春」では娘(原節子)を嫁に出した父(笠智衆)が部屋で黙々とリンゴの皮をむく有名なシーンがある。小津映画の笠も寡黙な父親である。おそらくこのCMを作ったクリエーターも小津の熱烈なファンではないかと思う。それほどこの作品は小津のテイストで満ちているのだ。もちろん「パクリだ!」と思う人もいるかも知れない。それはそうかもしれないが、キャスティングと雰囲気と構成がここまで上手なら、芸人コロッケの物真似に真似された本人が文句をいわないように、このCMに文句をいうのは野暮なのではないだろうか。それほどよくできている。最近は心に残るCMがどんどん減っているという調査結果もあるが、こういう「15秒のドラマツルギー」なら心に残るのは当然だろう。企画倒れがそのまま通ったようなCMの洪水の中で「味わえる」作品となるはずだ。