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- はじめに -
 Y2K問題も大きな混乱なく、西暦二〇〇〇年を迎えた。

 しかし、新時代の到来を告げるかのように、ビッグニュースが年初早々に相次いで伝 えられた。
「アメリカ・オンライン(AOL)によるタイム・ワーナーの買収」。これによって 全米ネット人口の四〇%二〇〇〇万人、一二〇〇万世帯のCATVの視聴者を擁した 巨大なネットメディア企業が誕生したことになり、《ネット革命》本格化の号砲が轟 き渡った。
 その衝撃を追うように「ビル・ゲイツがマイクロソフト社のCEOを退任する」とい う、これまた世界中の人々を驚愕させる発表が続いた。
 こうして二〇〇〇年を機に、コンピュータ・IT時代からネット・IT時代への大変 革が急速に始動してきた。
 これからの大変革の予兆が、実はY2K問題だったのかもしれない。
 一説によると、世界中でこの問題に費やされたコストは六〇兆円にのぼるというか ら、いかにすさまじい対策費であったか、社会全体がいかにコンピュータに依存して いるかを、明確に示した。これから五年、我々の周辺には、世界には、どんなことが 起こるのであろうか。そして、その変化についてどう考え、どう対処しなくてはなら ないのか。本書は、激化する技術の進化・変転・動向を中心に、その影響を私なりに 推察・推論したものである。
 まず最初に注目すべきは、その変化の速度と構造についてである。
 二〇〇五年までには、現在のインターネット環境・状況は量・質・利用方法・コスト 等あらゆる面で一変する。今隆盛を誇っているYAHOO、goo等の汎用型ポータルサイト はやがて目的・ジャンル・個人別に細分化され、特定企業のポータルサイトが創り出 される。個々人の趣味・関心事をしっかり管理し、利便性を徹底した、すなわち個人 化(パーソナライズ)されたポータルサイトが主流になるであろう。さらに、知識処 理機能の発達により、ポータルサイトの個人化、利用しやすさがいっそう成熟する。
 量の面では、ブロードバンド(広帯域インターネット回線)の実現により現在よりも 少なくとも一〇〇倍のスピードで活用できる環境が整備される。一九九九年末には、 既存の電話線を活用、DSL(デジタル・サブスクライバー・ライン)技術で一Mb /S、月間の費用が六三〇〇円といったインターネット専用サービスも始まった。す でに敷設されている光ファイバー、CATVの高速回線を考えると、家庭やSOHO で一Mb/S以上の高速サービスが月額五〇〇〇円以下で提供される日はすぐそこま できている。このブロードバンドを利用して、テレビ電話・テレビ会議、動画配信を インターネット上で日常的に実現できるようになる。質的にもデジタル・コンテンツ の配信はより高レベルとなり、証券・金融・情報・音楽・ゲーム等の動画を含んだ上 質なコンテンツの利用も日常化する。
 現在のインターネットは、企業内外の利用が比較的高い比率を占めるが、やがては一 般の電話のように企業対個人、ついで個人対個人の利用率が高くなってゆく。イン ターネットの重要な一面としての通信は、電子メール以外にテレビ会議・電話の機能 として利用されてゆくであろう。インターネットの一般化に伴い選挙や投票行為にも 活用され、民の声が即時に政治に反映される構造にもなってゆく。そうすると、為政 者と市民との間も現在のようなピラミッド型の構造ではなく、フラット型での関わり 合いに移行する。
 インターネット究極の革新性は、一連の経済活動のベースを根本的に変革する点にあ る。企業間の取引をBtoB、企業対個人の取引をBtoCと言っているが、新しい潮流はコ ンシューマが主導権を握るCtoBへの移行をすながすであろう。コンシューマー・デマ ンドとニーズ・企画から取引が始まる形態も現実となるであろう。さらに発展して個 対個、つまりPtoPという取引の構造も明確になってくる。
 コミュニティに参加する人々のほとんどがフラットな立場で会話をし、情報の受発信 をする、その延長線上で個人対個人が取引をする、そんな形態が新しい社会を形成し てゆく。そうなると我々が現在持っている価値観すら大きく変わり、予想もつかない 現実がやってくる可能性も否定できない。
 これからの五年間、我々は第二次インターネット革命の中で個人、企業、市場、社 会、国、世界というあらゆる立場で未曾有の激動の中を生きてゆくことになる。
 本書がその一助となることを切に願う。

 末尾になるが、本書出版に際し、東洋経済新報社出版局の大貫英範氏に一方ならぬお 世話になった。ここに心から感謝申し上げたい。

二〇〇〇年一月一八日
石井 孝利


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