いつもの8耐らしくない、何ともうらめしい天気だった。また、とてもFCCのチームカラー(ブルー)には似合わない雨空とも言えた。普通台風が去れば、”台風一過”の好天気となるのだが、降り続く雨は時に強く頬をたたいた。
そんな中、前田選手のフリー走行が始まった。タイムは、2分59秒719で69台エントリー中、第44位。予選57位から順位を上げるところは、さすが悪状況にも強い前田選手らしいまずまずのフリー走行だった。
そんな自信を裏付けるかのように、今朝顔を会わせた第一声も、世界の坂田選手より
も4秒近く良いタイムだね、の呼びかけに、「ビックバイクですもん!!」というコ
メントにも表われていた。8耐にふさわしくない気が滅入りそうな天候ではあったが
、熟成した果実のごとく、できあがっていた彼の表情に期待がもてた。そして、つづ
いて「遠い東京からわざわざすみません。」と気づかいを忘れない、いつもの彼でも
あった。
10:05、チーム監督の藤井氏が「ピット内の方集まって下さい。スタッフもプレスの方も。」との呼びかけ。
「みなさんの応援がなければ、8時間がんばれません。どうぞ応援よろしくお願いし
ます。」若いさわやかな青年監督といった表現が似合いそうな二枚目監督に言葉にチ
ームFCCの8耐は、ピット内のやさしい拍手につつまれ、スタートを切った。
いろいろこのチームは話題が大きく、陣中見舞の意味もあってか、ピット裏には、他のチームのライダーや、さきほどは坂田選手同様に世界GPを一緒に戦っている上田昇選手の顔もみえた。
時間の経過とともにプログラム通り、コース上では、レースに先だって選手紹介が行われた。チームFCCがアナウンスされると、スタンドからは、ひときわ大きな拍手と歓声が上がった。チームFCCが世界を舞台に戦っているレースチームであることや、また、前田選手のパートナーである坂田和人選手は、早くから世界に出ていって、94年には世界チャンピオンを獲得した日本のスター選手であることを観客は良く知っていた。前田選手もマシンから離れたスタート位置でキャンペーンガールの差し出す傘の中で観客席に両手を振ってみせた。(前田選手の名誉のために記述しておくと、彼
もまた90年の8耐には予選2位、決勝8位の好成績を始め8耐に過去5回出場している。
また、先日の行われたマン島TTレースのオーガナイザーや国内外のレース関係者から
も彼のレースぶりには高い評価がある)
全ての選手とチームが紹介された後、各車エンジンに火が入り、サイティングラップ
が始まった。コースを2周する。それが終了するといよいよ8時間に及ぶレースのスタ
ートだ。
レースは、マシンに駆け寄り、エンジンをスタートさせる「ル・マン式」で、11:30にスタートすることが決定している。
FCCは2人のうちタイムの良い前田選手が第1ライダーとなり、スターティンググリッ
ドの69台中57番手からサイティングラップに出ていった。
1周目、750cc4ストロークのスーパーバイクのエンジンから吐き出される、カン高いエギゾーストノートに交じり、S-NKクラスのスーパーブラックバード独特の力強いサウンドがメインストレートを通過して行った。あと1周だ。2周目も終えて、各車続々とスターティンググリッドに戻ってくるが、スーパーブラックバードの姿が見当たらない。その時、「778番のマシン、ピットへ!!」というレースアナウンサーの、みし奈さんの声がスタンドに響く。そしてスーパーブラックバードは、スターティンググリッドに着くのではなく、ピットレーンを舞い戻ってきた。ビット内が騒然となった。
もうスタート2分前だ。メカニックが駆け寄り、ガソリンタンクやカウルを素早く
はずし、スーパーブラックバードを分解し始める。しかし無常にも、そんなチームFC
Cの事情とは無関係に、スタンドの観客の手拍子とともにスタート10秒前のカウント
ダウンが予定通り進んでいった。
11:30ちょうど、スーパーブラックバードを含む数台のマシンを残し、60台以上に
よるマシンの爆音とともにレースは8時間の火蓋を切った。
一方で、チームFCCのピット内ではあわただしく作業が進んでいる。ピットリポート
のアナウンスによると、ガソリンがまわってこないらしいことをスタンドに伝えてい
る。レースは次々先頭車両がLapを重ねていって
、じれったい時間がどんどん過ぎていった。ピット内で前田選手はヘルメットを取っ
たままだ。時折モニターを見上げて坂田選手にも声をかけるが、ほとんど椅子に座っ
て、じっと腕組みをしたままだ。
「ヨーシッ!」という、メカニックの声に第1ライダーの前田選手が、おもむろに、
そして慌てずマシンに近寄り、セルスイッチを押した。そこでスーパーブラックバー
ドは息を吹き返し、前田選手のライディングでピットを離れていった。その時すでに
トップから8Lap周回を遅れていた。
しかし、ちょうど1週間前の「S-NK2時間耐久ロードレース」では途中のアクシデントにも関わらず、猛追し、3Lapを巻返し、優勝してしまった前田選手(と小西良輝選手)とスーパーブラックバードだ。加えて、ペアを組むのはピッグバイクはほとんど
初めてとはいえ、世界GPを走る坂田選手。しかもレースはまだ序盤でレースは8時間
の長丁場、まして今日は雨のレースで、何があってもおかしくない。好材料に運も味
方につけていけばと、この後の奮闘をピットの誰もが大いに期待した。
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