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CMの研究

第20回 CMも「友愛」がテーマになるのか?
 サントリーBOSSの試み


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 10月26日、52分に及んだ鳩山首相初の所信演説のテーマは「友愛」だった。
ちょうど同じ日にサントリーの缶コーヒー「BOSS」のCMが流れていたが、面白いのはその内容が「友愛」を訴えるものだったからだ。
このCMでは、「スター・ウォーズ」に出てくる惑星のような荒涼とした場所が舞台。いろいろな楽器を演奏しているメンバーのところに少々疲れたセールスマンの永瀬正敏がやって来て仲間に入るというものだ。そのメンバーの顔ぶれがユニークというが豪華というか・・・。吉川晃司、ムッシュかまやつ、小林克也、仲本工事、マギー司郎、板尾創路、桐島かれん、ピエール瀧、スチャダラパー、笠浩二、山根良顕(アンガールズ)となっている。このうちプロのミュージシャンは吉川晃司、ムッシュかまやつ、笠浩二(あのCCBのボーカル)、ピエール瀧、スチャダラパーだが他は役者やマジシャンということになる。
 このCMは5月に放送されたものの続編になっている。5月の放送でもやはり永瀬がやって来て仲間に入れて欲しいと頼むパターンだった。その時は長瀬を迎えいれる人たちの「君が生きるといいね」という言葉が印象に残った。その後一体どんな物語が始まるか楽しみだったが、約半年して今度の続編が放送されたということになる。
 今回は第1作と違って、すでに永瀬も加入し、フラッシュバックで長瀬の過去がわかるようになっている。永瀬はサルがシンバルを叩く玩具を店に売りに行き、古臭いということでけんもほろろの扱いを受けるのだ。その店の前で失意の永瀬にムッシュかまやつと桐島かれんがBOSSを手渡し、それがきっかけで長瀬が楽団を訪ねるということらしい。面白いのはシンバルを叩くサルのように永瀬もシンバルを叩くというところだ。
 サントリーの資料によると「ひたむきに自分の仕事をまっとうしようろする不器用だが愛すべき人々が団結すると、驚くほど美しいハーモニーが生まれる」というメッセージがあるようだ。となると、今後もひとりひとりの過去の生きざまが紹介されるかもしれない。なんだかどんな人生ドラマを見せてくれるかが期待できるCMになりそう。
 サブプラ以後低迷する景気と、いろいろな要素でますます生きづらくなる社会の中で、将来に希望を持つことは困難としかいえない。どう生きればいいのか模索する中で傷つき疲れていく人が増え続けている。このCMに出てくる長瀬がその典型だろう。しかし、彼は居場所を見つけたかに思える。同じような境遇の人たちと心を通わせて生きていく。それは自民党政権下のイケイケと強者の論理から決別した(現状では)国民の気持ちを素直に反映したものではないか。サントリーがいくら広告づくりの手だれといっても、そこまで読んでこのCMを作ったかどうかはわかないが、時代の雰囲気を実にうまく捉えているではないか。このCMを見た多くの人が癒されたはずだし、「こんな世界があれば楽しいだろうな」と思ったはずだ。
 いっこうに改善されない経済環境の中で、金をかけた大がかりでハデなCMが「昔の夢」のようになっている。クルマのCMだって海外ロケで美しいところを走ったり、莫大なギャラを取る有名俳優の起用が減り、やたら「減税、減税、お安くなります」とスーパーのチラシのようなCMを作っている現状がある。そんな中でまったく違う方向から商品を訴えるのがこの作品だろう。
 ムッシュかまやつが差し出すBOSSは、きっと暖かくて美味しいだろうなと思わせる。このCMこそ、民主党政権が打ち出している「友愛社会」をイメージさせるものに他ならない。弱くても不器用でも、一生懸命生きている人が報われる社会の実現をみんな期待しているのだ。