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CMの研究

第17回 タレントなしのCMでも売上No.1達成、
それがiPhone 3GS

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 アメリカのアップル社が発表した4~6月期の業績は前年比で12%の増収、15%の増益となった。好調のエンジンになったのはなんといっても携帯のiPhoneだ。販売台数は前年の7倍以上で、売上も4倍に増えたというから恐ろしい勢いだ。そしてこの勢いは日本国内でも同じで、ドコモのSH-06がiPhone 3Gを抜いたと思ったら、6月26日に発売されたiPhone 3GSがたちまちトップに躍り出たのだ。日本でiPhoneを販売しているのはソフトバンクだからさぞや笑いが止まらないだろうと思う。そしてCMではこのiPhoneが実にユニークな展開をしているのだ。

 それまでのソフトバンクのCMは白戸家の人々という設定で、おなじみの白い犬や上戸彩が担当していたが、昨年新たにGPSが搭載されたiPhone3Gが発売された時にのCMがガラっと変わったのだ。スターも犬も出てこない! 出てくるのは携帯画面と操作する手だけ。こんなCMあっただろうか。少なくとも携帯のCMではなかったはずだ。そしてこのiPhone3GのCMの内容は各機能ごとに分かれて、毎回違う機能のみを紹介するという、CMというよりは動く「取扱い説明書」みたいなのだ。例えば、最初に放映されたのは、iPhone3Gの画面から写真を選んで修正し、次に英語の発音を聞くために調べ、最後に本棚の傾きを調べるアプリケーションを選ぶというもの。3つの機能を紹介するだけなのだ。また、別のバージョンでは、iPhoneの画面にある「食べログ」のボタンをタッチして食べ物屋を探したり、漫画を読んだり川柳をつくるという、iPhoneで何ができるかだけだ。

 かたやドコモでは山崎努、堤真一や爆笑問題、さらには若手の松山ケンイチ、堀北真希、劇団ひとりと実に豪華なメンバーでCMをし、auも仲間由紀恵を使う等と各社ある意味カネに糸目をつけずにCM合戦をしているなかでのこのある種「超ジミ」CMだ。しかも、現在最強のケータイと言われる7月発売のiPhone 3GSはまたしても人間は「手」しか出てないのだ。

 そのiPhone 3GSはiPhone 3Gより大きく機能がアップしているが、そのことを文章で説明すると、「スピードと性能が 最大2倍高速化し、バッテリー寿命も長くなり、3メガピクセルのオートフォーカスカメラ、ビデオ撮影、テザリング機能、音声コントロール、デジタルコンパスといった機能が追加された」ということになるが、これをいきなりイメージできる人は少ないだろう。だからこそ、また今回もすべて画面で説明する手法を採用したと考えられる。7月10日に放送された最初のCMでは電話番号をコピーしてメッセージにペーストし、WEBページからコピーしてメールにペーストし、地図をコピーするという内容。次に放送されたCMは、「これが新しいiPhoneです。もし誰かに電話したいときはこんなふうに言ってください」 というナレーションで、携帯画面に向かって電話したい相手の名前を呼ぶとつながるというものだった。別のCMではiPhoneでスケートボーダーを撮影して編集して送信すれば他の人とビデオが共有できるというものだった。

 これらのCMを一言でいうと、「ケータイショップで店員が目の前で商品を使ってデモンストレーションをする」という感じだ。これまでほとんど行なわれなかったが実に効果的な「コロンブスの卵」のようなCMだ。こういうCMはおそらくいままでも企画されただろうが、スポンサーの鶴の一声「そんな、スターの出ないCMなんて誰が見るんだ!」という声でボツになったことは想像に難くない。

 この3Gや3GSのCMもある種の冒険だったろう。しかし、それを決定したソフトバンクの英断は成功だったはずだ。携帯はかけられればいいと思う大人の考えと逆に、生まれた時に銀のスプーンの代わりに携帯を持って来たのではないかと思える若者にとっては、「どんな機能が、どんな画面を操作すれば実現するのか」ということはものすごい関心事項だ。CMの本質は費用対効果を上げることだから、そういう意味ではこの一見取説みたいな機能本位のiPhoneのCMは抜群のコストパフォーマンスをたたき出したはずだ。