テレビ報道に見る産業・経済
平成25年まとめ編
平成25年産業・経済の1年を振り返ると、そこにはこの一年の激動が見えてくる。
1月
政権交代を果たした安倍首相が初の所信表明を行ない、経済について3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、投資を喚起する成長戦略)を柱としたこれまでとは次元の違う政策で強い経済再生を目指していく考えを表明した。日銀は金融政策決定会合で物価上昇率2%を目指すインフレ目標の導入、無期限金融緩和を決定した。アルジェリア人質事件で日本人10人が犠牲になり、アフリカに進出する日本企業の間に懸念が広がった。日本経団連や経済同友会など経済3団体による、日本企業のトップが集まる新年恒例の祝賀パーティーが行なわれ、デフレと円高から脱却する「アベノミクス」に対し経済界の期待感が示された。
2月
円は一時1ドル=94円台を記録し、日経平均株価は1万1463円75銭でリーマンショック以降の最高値を更新した。安倍首相が求める大胆な金融緩和に当初慎重な姿勢を見せていた日銀・白川総裁が任期前の辞職を表明したことで円安が急激に進んだことを背景に自動車などの輸出企業は好決算を発表する一方、資源エネルギーなどを輸入に頼る業界が悲鳴を上げた。TPP・環太平洋経済連携協定の動きでは、安倍首相と米国・オバマ大統領との初の首脳会談が行われ、聖域なき関税撤廃が前提ではなく例外があることが確認されたとして、日本のTPP交渉参加に大きく弾みをつけた。安倍首相は次の日銀の総裁にアジア開発銀行・黒田東彦総裁の起用を固めた。
3月
安倍首相が、TPP交渉への参加を正式に表明。政府はTPP参加により輸出の増加などで3.2兆円GDPを押し上げるとする試算を公表。一方で安い輸入品が入ることで農林水産物の生産額は3兆円減少すると見込んでいる。経済界からはTPP交渉参加への表明を評価する声が相次いだ。白川総裁の後任として黒田東彦が第31代の日銀総裁に就任した。日銀は新体制のもと、デフレからの脱却に向けた強力な金融緩和策の具体的な検討に入ることになり、黒田新総裁は、国会での所信聴取で2%の物価目標に向けて強力な金融緩和策に踏み切る考えを示した。日本のTPP交渉参加の正式表明で、安価なシェールガス由来のLNGガスなどが輸入できる可能性が高まり、住友商事を始め他の総合商社もシェールガスの経営企画に相次いで乗り出した。経営の立て直しを急ぐシャープは、主力事業で競合してきた韓国のサムスン電子と資本提携し、100億円規模の出資を受けることになった。一方、シャープと台湾メーカー・ホンハイの資本提携交渉は26日までの期限内にまとまらず無効となった。
4月
日銀・黒田総裁は“異次元”の金融緩和を発表、株価は急騰し、円相場は一時99円台になった。また経常収支は4か月ぶりに黒字になった。TPPの日米事前協議が最終合意し、合意文書では「農産品は日本にとって聖域」という認識を改めて共有。自動車については米国の関税は当面維持し、保険分野でも日本政府がかんぽ生命のがん保険などの申請を数年間認めないなど米国に譲歩する結果となった。ロシア・モスクワ・クレムリンで日ロ首脳会談が行われ、経済界から100人以上が安倍首相に同行、反TPPを掲げているJA全中・萬歳会長も同行した。住友商事や東芝はロシアでの医療や農業、エネルギー開発などの新規事業を発表。日本はロシア・アムール州の開発の支援を行うことで同意。北海道で培った栽培技術を使って開発を行うことを検討している。
5月
1~3月期のGDPが発表され年率換算で4.1%増、2期連続プラスとなったものの、中国経済の先行き不透明感が高まり株価は乱高下した。安倍首相はトルコで行われたエルドアン首相との会談で、トルコの原発建設プロジェクトでの三菱重工業とフランスのアレバの受注を事実上認めることを確認しあった。福島第一原発事故後、官民連携による原発輸出が具体的に決まったのは今回が初めてで、安倍首相は自らがトップセールスマンとして日本の売り込みに力を入れると成長戦略第二弾の演説で強調した。この他、2008年にリーマンショックによる景気悪化でF1から退いたホンダがF1に復帰することを正式に発表した。
6月
日本の経常収支が7500億円で3か月連続で黒字となった。日銀が長期金利の抑制策の導入を見送ったことやFRB・バーナンキ議長が量的緩和縮小を年内にも開始すると発言したことなどで一時、1万3000円を割るなど乱高下を繰り返していたが、FRB・パウエル理事が金融引き締め懸念の払拭に動いたことで、市場に安心感が広がり今年3番目の上げ幅を記録、ほぼ1ヵ月ぶりの高値を回復した。一方、三井造船と経営統合の交渉を進めていた重工大手・川崎重工業は、取締役会で緊急動議が出され、長谷川聰社長ら3人が解任された。長谷川前社長は造船事業をてこ入れしようと統合交渉を推し進めたが、経営陣の内部から反対意見が相次ぎ、緊急動議では統合交渉を白紙に戻すことも決定した。三井造船の株主総会では、株主から厳しい声が聞かれた。この月、日産自動車と三菱自動車が共同開発した初の軽自動車が発売された。
7月
日銀が2年半ぶり回復に景気判断を上方修正。日銀短観では大企業の製造業景気判断は7期ぶりにプラスになった。円安傾向が続き、輸出関連企業を中心に業績が改善、大企業の製造業の景気判断は大幅に改善した。参院選挙では自民党が圧勝し、ねじれ状態が解消。産業界からは歓迎の声が上がる一方、成長戦略の着実な実行を求める厳しい声もあった。東京証券取引所と大阪証券取引所が、現物株取引を東証に統合した。これにより東証は上場企業の数と時価総額で世界第3位の規模になった。日本郵政は、米国の生命保険大手・アメリカンファミリー生命保険(アフラック)と提携を拡大すると正式に発表し、今回の提携で、アフラックのがん保険を取り扱う郵便局を2万ヵ所に拡大することが決まった。
8月
4-6月期GDPは年率換算+2.6%で3期連続プラスとなった。政府は月例経済報告で物価の動向について、エネルギー価格の上昇などを背景に「デフレ状況ではなくなりつつある」と、2009年11月に宣言した「緩やかなデフレ状況にある」との判断が終わりつつあることを示した。各社の決算が相次いで発表されたが、ソニーは大株主の米国投資ファンド・サードポイントから受けた「映画・音楽事業の分社化を株主のために直ちに実行すべき」とする提言を受け入れないことを正式に発表した。
9月
2020年の東京オリンピックの開催が決定した。7年間で約3兆円の経済効果が見込まれる。一方で、安倍首相はGDP改定値3.8%などのファンダメンタルズなどからも景気の回復が明らかとなったとして、消費増税を決断。一方、財務省が発表した海外との物やサービスの取り引き状況を表す7月の経常収支は6か月連続の黒字となったものの、貿易収支は原油などの輸入コストが上回り赤字となっている。この他、川崎重工業が海外で過去最大となる受注額、およそ1800億円の鉄道車両をニューヨーク州にあるロングアイランド鉄道から受注したことが分かった。NTTドコモがiPhoneの取り扱いを開始。ソフトバンク、KDDI(au)大手3社がiPhone5s、5cの販売をめぐり激しい販売競争が展開された。アップルは発売から3日間のiPhone販売台数が900万台を超え、発売直後の販売台数としては過去最高になったと発表した。
10月
9月の日銀短観は、大企業の製造業ではプラス12で、3年連続で改善し、リーマンショック以降の最高水準となった。政府は月例経済報告を発表し、景気の基調判断を先月と同じ「緩やかに回復しつつある」に据え置いた。大企業を中心に引き続き収益が改善していることに加え、企業の業況判断もさらに良くなっているとしている。この他、今年で14回目を迎えるアジア最大級の最先端技術の展示会シーテックジャパンが開催され、千葉市・幕張メッセに世界の約600の企業や団体が集まり、企業の最新技術が紹介された。NTTドコモによる英語などを日本語に翻訳するメガネ(韓国語、中国語にも対応)や、パナソニックのタフパッド4Kテレビなどが注目を集めた。
11月
米国でFRB議長に指名されたイエレンが量的緩和策を維持する考えを示したのを受けてニューヨーク市場で最高値を更新したことや1ドル=100円台まで円安が進行したことなどから、日経平均株価が半年ぶりに1万5000円台を回復した。一方、今年度上半期の日本の経常収支は、円安による輸入価格の上昇で貿易赤字が4兆6664億円と過去最大になったことなどから、黒字額は3兆548億円にとどまり、統計が比較できる昭和60年以降では最も少なかった去年に次いで2番目に少なくなった。この他、2年に1度行われる自動車の祭典・東京モーターショーが、一般公開を前に報道陣に公開され、今まで以上に進化したエコカーや軽自動車に加え、ハンドルもアクセルも無い車が話題になった。東京電力は原発事故後、はじめて福島第一原発4号機の燃料プールから核燃料を取り出す作業を開始。40年かかるとされる廃炉の最初の節目を迎えた。
12月
日銀短観で大企業の景況感が6年ぶりの高水準を記録した一方で日経平均株価は大幅反落し、全ての産業の設備投資計画は今回4.6%に下方修正されている。企業は消費税増税後の冷え込みを懸念している。また、4-9月期GDP改定値が発表され、年率換算+1.1%と下方修正された。年内妥結を目指していたTPP交渉は全輸入品の関税撤廃を要求する米国と聖域5品目を守りたい日本が対立していることに加え、先進国と新興国の溝が埋まらず、来年に持ち越しとなった。政府は、年明けに決定する国のエネルギー基本計画について議論する閣僚会議を開き、原発を重要な電源として活用していく方針を改めて確認した。東京電力は、取締役会で福島第一原発5、6号機の廃炉を正式に決定。国内の商業用の原発は48基となる。
JCC株式会社
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