一般の人の中に混じっても、レーシングライダーとはけっして分からないほどの小柄な体形。
通常は軽量で旋回能力の高さで勝負する小さな125CCのマシンで戦っているのだ。
そんな坂田選手が、今日ライディングするのは、マシンコントロールが難しいウエッ
トコンディションの悪条件下でのスーパーブラックバードの様な大排気量のビッグマ
シーン。いったいどう乗りこなすんだろう。
坂田選手のライディングは、きっとスタンドの観客の興味を呼んだに違いない。
トップとは20分あまりの差で、静かに滑り出ていった坂田選手とスーパーブラックバードだった。8耐、第1回目の坂田選手のライディングだ。新調した坂田選手のレーシングスーツは、まだ、汚れていなかった。
序盤のライディングでは路面状況/マシンコンディション/レース状況/前田選手から
の情報といったあらゆるデータを確かめるように、ときに直接ヘルメットを振り替え
って慎重に周回していった。
それでもメインストレートでは、マシンのスクリーンに身を屈めて飛んでいく。
レースを見回すと、チームFCCだけでなく、各チームにも不運が襲っていた。
予選順位上位チームでも転倒あるいは、マシントラブルが続発し、降りしきる雨を恨
めしく思っていたのは、決してチームFCCだけではないであろう。今年はピット内の
モニターを見ていると、絶えずどこかのチームにトラブルが発生し、いつもの8耐と
は違ったレース展開だった。
そんな中、スーパーブラックバードも同様に苦戦していた。ウェットな路面状況では、他車をリードするモンスターパワーを生かせない。無理をすれば大きくホイールスピンし、マシンコントロールできなくなるからだ。1週間前のS-NK2時間耐久ロードレースで見せた爆発的なパワーはなく、無理のできないストレスが溜まる状況が続いた。しかし、周回を重ねるうちに、坂田選手とスーパーブラックバードは先行する車両を後方から追いまくっていく姿が何度も見れた。
2:10過ぎ、再び、前田選手のライディングの時間をむかえた。
先程の転倒によるケガも大丈夫そうだ。彼は元気にピットに姿を現わした。
モニターを見上げながら、坂田選手の帰りをまつ。
スタッフはピット前に出て、タイヤ交換・ガスチャージの体制で待ち構える。
メカニックの仕事いかんでは、ライダーの頑張りを一気にロスってしまう故、ライダ
ーチェンジのタイミングは、8時間のうちのわずかな時間だけれども、8耐ならではの
大きな見せ場の一つだ。しずかに、スーパーブラックバードが、ピットレーンを戻って来た。ストップするやいなや、スタッフが掛け声をかけながら、マシンに駆け寄る。全員が同時にタイヤ交換、ガソリンチャージ、カウルのスクリーンを拭くといった作業をこなす。各自、分担の仕事をテキパキと終える・・
それはまるで、火災現場の消防士のごとく見事な仕事振りだ。
そしてライダーチェンジした前田選手を全員で見送った。
この間、わずか十数秒。
このころになるとレースも小康状態を保ち、観客も観戦場所を移動したり、思い思いの時間を過ごすようになる。雨中にも関わらず、沢山の観客がつめかけた8耐だが、コースの外では、「ここはどこかのお祭り会場か?」というほどの人出と賑やかさがあって、絶えず聞こえてくる排気音を除けば、遊園地とかわらない風景だ。バトルを繰り返している隣のサーキットとは対照的だった。隣接の遊園地で楽しそうに遊んでいるカップル、商魂たくましく出店から声を掛け、グッズの販売に一生懸命なスタッフ、キャンペーンギャルの撮影会、タレントショー、そして圧巻は、さっきまでサーキットを走っていた選手のトークショー、などなど、、、。
さすがに8時間の長丁場だけあって、また、これだけの観衆がつめかけた一大イベントだと、こうも違うものかと。
11時30分にスタートしたレースも、ようやく半分をむかえようとした15時過ぎ、再び坂田選手のライディングがまわってきた。もう、手慣れたものでピットのスタッフも前田選手も坂田選手も落ち着き払って、無事ライダーチェンジを終えた。
ヘアピンコーナーで見た坂田選手は、後ろから迫ってくる先行のマシンを振り替えって、大きく進路を譲っていた。しかし、コーナーの立ち上がりやストレートでは、濡れた路面にホイルスピンをしながらも、スーパーブラックバードのパワーを裂烈させ、観客に見せ場を作っていた。
16時、再びライダーチェンジで前田選手のライディング。この時点で62位。
16時56分、再び坂田選手へチェンジ。
レースもあと、2時間半あまり。ゴールの19時30分を目指していった。
|