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テレビ報道に見る産業・経済月報
(令和3年9月)

「岸田総裁が誕生・年内にも数十兆円規模の経済対策を策定」

今月の特徴は1.緊急事態宣言解除、2.岸田総裁誕生、3.日銀の動向、4.ワクチン新薬の動向、5.エネルギーの動向となった。                                                         

 

1.緊急事態宣言解除

政府は28日、19都道府県に発令している緊急事態宣言と、8県へのまん延防止等重点措置を、期限の9月30日をもって全面解除することを正式に発表した。緊急事態宣言解除後、東京都では10月1日~10月24日を「リバウンド防止措置期間」として、都の認証を受けた飲食店などでは午後9時までの時短営業で午後8時まで、酒類の提供を認める方針。1テーブル4人を上限として、応じた場合は店の規模に応じて協力金を支払う。一方で認証を受けていない店には、午後8時までの時短営業と酒類提供の自粛を要請する。またイベントについては、午後9時までの時短要請が10月末まで出され、スポーツイベントやロックコンサートなどの「大声あり」のイベントでは、収容人数最大1万人か定員の50%までとし、演劇やクラシックコンサートなど「大声無し」のイベントは5000人以下の場合、収容定員まで入場可能とする(フジ)。サントリーHD・新浪剛史社長は政府が国民の行動制限を11月に緩和すると打ち出したことに対して「11月ではなくもっと早く開始すべきだ」と訴えた(日テレ)。

 

2.岸田総裁誕生

自民党の新しい総裁に岸田文雄氏が選ばれ、経済対策について「年内に数十兆円規模の経済対策を策定することで多くの国民に協力してもらえる雰囲気を作っていきたい」とコメント。強く主張しているのが成長と分配の好循環。具体的には看護師や保育士などの賃金引上げ。また、成長戦略として5Gなどのデジタルインフラを地方に整備し、東京の一極集中を正す、デジタル田園都市構想。さらに、科学技術への投資を拡大させるため10兆円規模のファンド設立などを打ち出している(テレ東)。

 

3.日銀の動向

日銀の黒田総裁は日本時間の9月30日未明に開催された米国や欧州などの中央銀行トップが参加するフォーラムにオンラインで出席した。この中で黒田総裁は9月29日に自民党総裁選挙で岸田前政務調査会長が新たな総裁に決まったことに触れ、「これまでも政府の財政出動と日銀の金融緩和は相乗効果があった」として、「新しい政権がさまざまな政策を進める中で日銀も大規模な金融緩和策を維持していく。2%の物価目標を達成することが日銀の使命。その使命が変わる可能性は低い」と、今後もこれまで掲げてきた2%の物価目標は維持し、達成を目指して金融緩和を続けていく考えを強調した(NHK)。

 

4.ワクチン新薬の動向

塩野義製薬は新型コロナの飲み薬について、開発の最終段階である大規模な臨床試験を行っていることを明らかにした。東北医科薬科大学薬学部・久下周佐教授は「(抗体カクテルなど)点滴の場合、病院でないと(治療)できない。錠剤かカプセルの形状になると思うので、普通の薬のように自宅で飲める手軽さがある」と述べた。新型コロナの飲み薬は、年末から来年初めにも国内の医療機関で処方される可能性があるという。一方、経済同友会はコロナ禍からの経済回復などについて経済人およそ40人が参加する集中討議をオンラインで開催し、科学的根拠に基づいて経済再生を加速すべきという意見が相次いだ。櫻田謙悟代表理事は「政府はワクチン接種証明の活用や、社会活動の回復を迅速に進めるべき」との見解を示した。小林慶一郎政府コロナ分科会メンバーも会議に参加し、「ワクチン接種を努力義務にして接種率を上げることが緊急事態宣言の繰り返しを避けるためにも有効」との見方を示した。百貨店大手の松屋・秋田正紀社長は「今回で最後にして欲しい」と述べた上で、海外で「ワクチン接種証明」活用の広がりが接種率の引き上げにつながった事例を紹介し、ワクチンパスポートや陰性証明の活用を進めるよう政府に求めた(日テレ)。

 

5.エネルギーの動向

IHIは、マレーシア最大手の電力会社・テナガナショナルなどとアンモニアを使った発電事業に共同で取り組む方針である。マレーシアの石炭火力発電所に、燃やしても二酸化炭素が出ないアンモニアを燃料に混ぜる技術を導入し、発電によって出る二酸化炭素を20%削減することを目指す。また、アンモニアを製造する段階でも再生可能エネルギーを使い、二酸化炭素の排出削減につなげる狙いがある。テナガナショナルがあるマレーシアは、電力の半分近くを石炭火力が占め、日本の技術でどれだけ二酸化炭素を削減できるかが焦点となる。IHIは来週、オンラインで開かれるアンモニアの調達や活用方法に関する初めての国際会議で覚書を交わす方向で調整している。日本が先行しているアンモニアを使った発電技術が海外へ展開されるのは初めてとなる(NHK)

 

 

●新潮流

「中国で電力不足が深刻化・日系企業にも影響が」

国では全土の3分の2に相当する地域が電力不足に陥り、大規模停電や工場の停止が相次いでいる。電力不足の原因は火力発電に使う石炭の高騰に、関係が悪化したオーストラリアからの石炭を輸入禁止にしたことが拍車をかけた(テレ朝)。香港メディアの専門家は「21日時点で主要発電グループ6社の石炭備蓄量は1131万トンで、今後2週間耐えられるかどうかの量だ」と分析している。中国国内の石炭価格は、今年に入り倍に高騰している。9月30日の取引では1トンあたり過去最高額となる1408人民元、日本円でおよそ2万4000円をつけた。こうした燃料コストの上昇が、電力会社を圧迫している。さらに、習近平指導部が進める温暖化対策も影響しているとみられている。2060年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする目標を掲げる習近平国家主席だが、排出削減の指示を受けた地方政府が節電を急いでいることが電力不足に関係している。9月30日に発表された中国の製造業の景況感を示す指数が好不況の判断の節目となる「50」を下回ったが、これはコロナの感染が直撃した去年2月以来であり、1年7か月ぶりのこととなる。電力不足が景況感を悪化させた形である。JETRO(日本貿易振興機構)の調べでは広東省にある日系企業のうち、今月になって週5日以上の電力制限を受けた企業は55社にも上る(テレ東)。

 

 

●注目点

「経営者たちが岸田新総裁に求める経済対策」

民党・岸田新総裁を経済界はどう見ているのか。岸田新総裁の政策の目玉の一つがGoToトラベル2.0と呼ばれる観光振興策である。前回のGoToでは恩恵が行き届かなかった中小の旅館業者なども潤うような仕組みを作るほか、感染対策と両立させるため、ワクチンの接種証明を活用していくという。ただ、開始時期については「平時に近い社会経済活動を取り戻してから」としており、具体的な計画はこれからである。コロナ対策の次に要望が多かったのが5Gや半導体といった先端技術への投資である。先端技術をめぐって懸念されるのが中国などへの技術の流出で、これを防ぐため、岸田新総裁は経済安全保障担当大臣を新設し、関連する法整備も進めていく考えを示している。経団連・十倉雅和会長は「(岸田総裁には)果敢にリーダーシップを発揮してほしいと強く期待している」、JR東日本・冨田哲郎会長は「地方を元気にしてほしい。コロナで観光業や飲食業、地方の方々が大変苦しんでいる」、ANAホールディングス・片野坂真哉社長は「できるだけ早く、人々が安心して移動できることが経済を回す極意」、みずほフィナンシャルグループ・佐藤康博会長は「中国を含めた(国々と)様々な分野での科学技術の競争が始まっていく。世界で伍するレベルになるまで経済政策を集中してやる必要がある」、富士通・時田隆仁社長は「経済安全保障の問題は大変重要な問題。守るべきものをしっかり守りメリハリをつけて強固な関係を築いてほしい」と提言した(テレ東)。 

 

 

9月のランキング(企業別テレビ報道CM価値換算一覧全国版より)

「第1位・マルハニチロ、第2位・良品計画、第3位・神戸物産」

2021年9月のテレビ報道CM価値換算ランキングでは「マルハニチロ」が25億5400万円で第1位に輝いた。具体的には、「マルハニチロの社員が選んだ冷凍食品を、超一流料理人に『味の鑑定』をしてもらう」といった番組や、コロナ禍での料理に「缶詰」や「冷凍食品」を利用する番組への露出が大きく貢献した。第2位は「無印良品の“冷凍”何を買う?料理に合わせたカット野菜」などの報道で「良品計画」となった。第3位は「神戸物産28%増益・業務スーパー拡大」などの報道で「神戸物産」、第4位は「iPhone13シリーズ発売」などの報道で「アップルジャパン」、第5位は「テレワーク専用車両・新幹線で導入」などの報道で「東海旅客鉄道」、第6位は「完全栄養食のとんかつ定食…日清食品の挑戦とは」などの報道で「日清食品ホールディングス」、第7位は「誕生・ユニクロ初カフェ」などの報道で「ファーストリテイリング」、第8位は「東西統一!?未来の池袋を考える・2021夏」などの報道で「東武鉄道」となった。第9位は「鳥人間コンテスト2021」などの報道で「岩谷産業」、第10位は「トヨタ・電池に1.5兆円投資へ」などの報道で「トヨタ自動車」となった。

 

 

9月の人物ランキング

「第1位・日本銀行・黒田東彦総裁、第2位・経団連・十倉雅和会長、第3位・塩野義製薬・手代木功社長」

第1位・日本銀行・黒田東彦総裁45件(日銀・黒田総裁“2%物価目標は維持”など)、第2位・経団連・十倉雅和会長35件(経済界「ワクチンパスポート」実用化を提言・米国・フランス義務化で違反者に罰金もなど)、第3位・塩野義製薬・手代木功社長19件(塩野義製薬・国内ワクチン年内にも最終段階の臨床試験へなど)、第4位・スペースX・イーロンマスクCEO19件(人工衛星活用の通信分野・KDDI・米国スペースXと業務提携など)、第5位・日清食品・安藤徳隆社長14件(発売50年でも最高売り上げ・発明者の孫・驚きの手法など)、第6位・サントリーホールディングス・新浪剛史社長12件(コロナ禍からの経済回復・経済人が集中討議を開催など)、第7位・ドムドムフードサービス・藤崎忍社長10件(日本最古のバーガーチェーンなど)、第8位・トヨタ自動車・豊田章男社長9件(トヨタ自動車・挑戦・海外で製造した水素で自動車レースになど)、第9位・東京電力・小早川智明社長9件(東電は生まれ変われるのかなど)、第10位・KDDI・高橋誠代表取締役社長7件(KDDI・プラン大幅見直し“基本料金なし”など)。

 

 

●テレビの窓

「データサイエンティスト争奪戦」

ータサイエンティストとは文字どおりデータの科学者。企業は膨大な購買履歴などのさまざまなビッグデータをいろいろ持っているが、それをデータサイエンティストはコンピューター技術や統計学などを駆使して高度なスキルで分析し、経営課題の解決、収益につなげるという役割を担っている。米国では膨大なデータを宝の山に変えるデータサイエンティストは最も企業が欲しがる人材で、日本でも今争奪戦が激しくなっている。大手ITコンサルティング会社に去年入社したデータサイエンティストの張瀚天氏25歳は大学院でAIを学び、現在は大学病院と連携して医療データを解析することで副作用などを予測するAIを開発している。この会社のデータサイエンティストを統括するアクセンチュア・保科学世氏は企業の膨大なデータを分析できる人材を確保するのが難しくなっていると指摘している。高度な技術を持つ大学院生と企業をマッチングさせるアクセンチュアが開催したイベントに、集まったのは大手電機メーカーや製薬会社など15社の幹部に東京大学や大阪大学などの教授。企業側はなんとか優秀なデータサイエンティストを獲得しようと、限られた時間で教授陣にPRしていく。教授は研究室の学生が持つデータ分析の技術が生かせる企業を見極める。一方、人材の確保ができない企業ではアイデアだけでも手に入れようとする動きもある。あるサイトでは企業がデータサイエンティストに解決してほしい課題を掲載し、最も優れたアイデアを採用する仕組みになっている。これまでに企業や官庁が50回以上、様々なテーマで募集を行った。JR西日本は冬場、新幹線の運行前に、いつ、どこで除雪作業が必要になるか、気象データなどをもとに予測するプログラムを募ったが、2か月の間に400人からアイデアが寄せられ、1位に賞金100万円を出した。日本では2030年にデータサイエンティストを含め、AI人材が12万人不足するというふうにいわれている。企業にとっても優秀なデータサイエンティストを確保できるかが、競争力に直結することになりそうだ(NHK)。

 

JCC株式会社