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テレビ報道に見る産業・経済月報
(令和4年6月)

「止まらない円安」「日銀・大規模緩和策を維持」

今月の特徴は、1.日銀・大規模緩和策を維持、2.経常収支・3か月連続の黒字、3.円安の動向、4.株主総会の動向、5.電力需給の動向となった。                                                          

 

1.日銀・大規模緩和策を維持

日銀は、金融政策決定会合で、大規模な金融緩和策を維持することを決定した。黒田総裁はその理由について「金融を引き締めると、さらに景気に下押し圧力を加えることになるため」と説明した。また、今の金融緩和策の中で、プラスマイナス0.25%程度としている長期金利の変動幅を巡っても、「欧米の中央銀行の金融引き締めにより、長期金利に上昇圧力がかかっている」と指摘した上で「現時点では金融緩和の修正は考えていない」と強調した。世界では、新型コロナで影響を受けた経済活動の再開や、エネルギー価格などの高騰で、インフレが広がっている。インフレを抑えるため、欧米の中央銀行が相次いで利上げを決め、金融引き締めの動きを加速させる一方、日銀は金融緩和を続けていて、金融政策の方向性の違いから、急速に円安が進んでいる。旧大蔵省の財務官・榊原英資氏は「世界経済が若干、減速するような局面に入ってきている。円安が150円近くまでいく可能性は否定できない」と指摘した(NHK)。

 

2.経常収支・3か月連続の黒字

財務省が発表した国際収支統計によると、ことし4月の日本の経常収支は5011億円の黒字となった。輸出から輸入を差し引いた「貿易収支」は、原油などの価格上昇の影響で、6884億円の赤字となった。一方、海外の証券投資などで得た利子や配当のやり取りを示す「第一次所得収支」は、配当が増えたほか、円安ドル高が進んだことなどから、2兆3706億円の黒字となった。この結果、経常収支は3か月連続の黒字となったが、黒字額は55.6%減少した(NHK)。経済評論家・加谷珪一氏は「海外に投資した日本企業の収益で、今は経常収支の黒字をなんとか保っている状態だが、原油高と円安で経常収支が赤字になる月が出てきている。これが恒常化すると円安を加速する可能性がある」と指摘した(テレ朝)

 

3.円安の動向

円安がここまで進んでいるのは、欧米と日本とで金融政策の方向が逆を向いていることがある。米国の中央銀行FRBは今月0.75%の大幅な利上げを決めた。ヨーロッパの中央銀行も来月11年ぶりの利上げに踏み切る方針である。英国やスイスの中央銀行も利上げを決定している。一方、日銀は長期金利を0%程度に抑え込む今の大規模な金融緩和を続ける方針を打ち出している。世界が利上げに向かっている中、日本だけが金利を据え置いている。欧米と日本との金利差がどんどん広がり、投資家にとっては日本で投資をするより金利の高い欧米に投資をするほうがより高い利回りが見込める為、ドルを買って円を売る動きを強め、ドル高円安が一気に進んでいる。日銀は金融緩和を続けていく理由として、日本と世界で置かれている状況が異なることがあげられる。例えば米国は1年前と比べて物価が8.6%上昇と、およそ40年半ぶりの高い水準。GDPはコロナ前の水準を超え賃金も着実に上がっているが、あまりにも高いインフレのためFRBは金利を引き上げて経済を冷やしインフレを抑えることで、景気回復を長続きさせたいねらいがある。一方、物価が2.1%上昇の日本は景気回復の勢いは弱く、GDPはコロナ前の水準に達していない。賃金の引き上げは限定的で、消費も低迷を続けている。エネルギーや穀物などの国際価格の上昇と円安で輸入品の物価が上がって、それが物価上昇につながっている。この状況で金融緩和を修正するとなると、金利が上がり、中小企業や住宅ローンを抱えている家庭の金利の負担が重くなり、経営や生活に行き詰まる人が増える心配がある。また借金をして設備投資をしようという企業や家を買う人が減って景気を冷え込ませるおそれがある。金利を上げるデメリットのほうが大きいと日銀は判断している(NHK)。

 

4.株主総会の動向

上場企業の株主総会は29日ピークを迎えた。東京証券取引所に上場する3月期決算の企業の約600社が株主総会を開いている。ことしは株主側から気候変動問題への取り組みを強化するよう求める提案などが相次いでおり、株主提案が出された企業は過去最多となっている。三井住友フィナンシャルグループの総会では株主のNGOから地球温暖化対策の枠組み「パリ協定」に沿った投資や融資をするための目標を定めることや、新規の石油やガス田の開発などに資金を提供しないことを定款に盛り込むよう求める提案が出された。会社側は2050年までに投資や融資先全体の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするなどの目標を掲げ、すでに取り組みを始めているなどとして反対を表明した。大和総研によると今年の総会で気候変動問題への取り組みや、株主還元の強化、取締役に男女をそれぞれ選任するといった株主提案が出された企業は77社に上り、去年から6割増えて過去最多となった(NHK)。野村証券・池田雄之輔氏は「今年は株主提案の件数が多く、昨年と比べると1.5倍増のペースとなっている。アクティビズムの流れ、物を言う株主という流れが加速してきている。背景の1つとして今年4月の東証再編を契機に株の持ち合いを解消していこうといった動きがあったこと、もう1つは提案の中身に新しいトレンドが出てきていること。例えば脱炭素への取り組みをしてほしいといったような提案が増えてきている。ESGに積極的な投資家が増えてきているということが株主提案の内容にも表れている」と指摘した(テレ東)

 

5.電力需給の動向

政府は、東京電力管内に4日継続して出されている「電力需給ひっ迫注意報」を30日、午後6時で解除することを発表した。姉崎火力発電所5号機が再稼働していることや、複数の発電所の補修が終わり、発電を再開することが影響している。一方、万が一、発電所でトラブルが発生した場合などは供給力が低下する可能性があるとして、政府は熱中症にならない程度にエアコンなどを使用した上で、引き続き無理のない範囲での節電を呼びかけている。慶応大医学部・データサイエンティスト・宮田裕章教授は「電力の問題は、気温の上昇だけでなく、背景にカーボンニュートラルへの対応や、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー高騰が課題となっている。シナリオを想定した上で、節電の努力を可視化しながら、テクノロジーを活用していく必要がある。電力は個人、企業がどのタイミングでどのぐらい使っているのかを可視化することができる。そういったビッグデータを活用することで、企業活動に関しては電力コストが生じたときに節電できる」と指摘した(TBS)。萩生田経済産業大臣は28日、節電を促すため2000円相当のポイントを付与する制度を8月中に開始する方針を明らかにした。節電ポイントは電力会社などが節電に取り組んだ家庭に対して付与するポイントで猛暑による電力需給の逼迫を回避するため、家庭での節電や省エネの取り組みを後押しすることになる(テレ東)。

 

 

●新潮流

「半導体世界最大手・TSMCが初の海外研究拠点」

導体の受託生産世界最大手のTSMCが先端半導体の研究拠点を茨城・つくば市に設けた。TSMCや日本政府の関係者が集まり、開所式が行われた。約370億円の事業費のうち、半分に相当する約190億円は日本政府が支援していて、この中でTSMC・魏哲家CEOは「日本と台湾は世界の半導体サプライチェーンで重要なつながりがある。この施設での協力関係がより多くのイノベーションにつながると確信している」と述べた。新しい研究拠点では、高度な演算処理を行うロジック半導体や、記憶用の半導体など、複数の機能を組み合わせた先端技術の実用化に向けた研究を行う。日本としては強みを持っている製造装置や素材の知見を生かして研究を加速させたいところである。TSMCジャパン3DIC研究開発センター・江本裕センター長は「人間の“便利になりたい”という欲望が続く限り、半導体の進化は続いていく必要があり、開発のスピードを高めていきたい」と述べた(NHK)。実はTSMCは、本拠地の台湾以外に研究開発拠点を構えるのは初めてである。期待するのは日本政府だけではない。今回のプロジェクトには20社以上の日本企業が参画し、ずらりと並ぶ胡蝶蘭にはイビデンなど日本の半導体関連企業の名前があった。最先端の半導体を開発する拠点が日本国内にできたメリットについて、TSMCと連携する東京大学の黒田忠広教授は「互いの良いところを持ち寄って新しい時代をつくっていく。半導体のサプライチェーンにとっても意義がある」と指摘した。TSMCは2024年にはソニーグループデンソーと共同で熊本県に新たな生産工場を稼働させる計画で、日本政府として異例の最大4760億円もの補助金を出すことが決まった(テレ東)。

 

 

●注目点

「価格転嫁できない日本企業」

材料の高騰で食品などの値上げが相次ぐ中、企業が価格転嫁できている率は44.3%となっており、例えば原材料費などが100円上がったとしても44円程度しか値上げできていないことになる。つまり、半分以上は企業が負担している。実際のコスト上昇をそのまま価格に転嫁できている企業は6%に留まる事が、国内の中小企業など1635社に調査した帝国データバンクの調べでわかった。原材料価格や物流費の高騰などによるコストの上昇分を「すべて価格に転嫁できている」と回答した企業は6.4%にとどまる一方、「全く転嫁できていない」企業は15.3%で「多少転嫁できている」とした企業でも価格の転嫁率は4割ほどにとどまっている。コストが100円上昇した場合でも40円程度の値上げしかできていない。多くの企業がコスト上昇を自社で負担している事が浮き彫りになった。経済評論家の加谷珪一氏は、価格転嫁ができないために給料も上がらないとした上で、今の日本には価格転嫁できない2つの大きな課題があり、1つはデフレマインド。もう1つは大企業に下請けの中小企業が逆らえないという構図があると指摘した(日テレ)。

 

 

6月のランキング(企業別テレビ報道CM価値換算一覧全国版より)

「第1位・オリエンタルランド、第2位・すかいらーくホールディングス、第3位・味の素」

6月のテレビ報道CMランキングでは「オリエンタルランド」が44億9900万円で第一位に輝いた。具体的には、「東京ディズニーランドとシーは6月下旬から8月31日までの期間、通常価格の半額となる子どもパスポートを販売」等の子ども向け料金半額キャンペーンが大きく寄与した。第2位は「すかいらーくHD・800店舗以上で、セルフレジ導入へ」等の報道で「すかいらーくホールディングス」となった。第3位は「超斬新!味の素公式レシピ 豚ひき肉かたまり焼きとは?」などの報道で「味の素」、第4位は「好調・業務スーパー・値上げでも成長のワケ」などの報道で「神戸物産」、第5位は「あの人気ブランドでトレンドコーデ・優勝者・東京ガールズコレクション出演」などの報道で「アダストリア」となった。第6位は「リアル桃太郎電鉄・8月に開催」などの報道で、「東武鉄道、第7位は「inキラキラドンキ・大行列!イマドキZ世代の“映え&最新”バズりアイテムを学ぶ!」などの報道で、「パンパシフィック・インターナショナルホールディングス」、第8位は「ANAの旅客機フライングホヌを取材」などの報道で、「ANAホールディングス」となった。第9位は「伊藤忠テクノソリューションズ×イオンモール・公共交通の全体最適化を目指せ!」などの報道で「イオン」、第10位は「クラウドファンディングで新企画が続々!」などの報道で「J.フロント リテイリング」となった。

 

 

6月の人物ランキング

「第1位・日本銀行・黒田東彦総裁、第2位・テスラ・イーロンマスクCEO、第3位・東芝・島田太郎社長」

第1位・日本銀行・黒田東彦総裁277件(急速な円安好ましくない・岸田総理と黒田総裁が会談など)、第2位・テスラ・イーロンマスクCEO30件(イーロンマスク「リモートワーク受け入れられない」など)、第3位・東芝・島田太郎社長16件(東芝・社外取締役が電撃辞任「物言う株主」受け入れ…幹部直撃など)、第4位・イオントップバリュ・土谷美津子社長12件(来月から・イオン・自社ブランド商品3品目値上げなど)、第5位・トヨタ自動車・豊田章男社長12件(トヨタ・水素エンジン車・24時間レース参戦で開発など)、第6位・ファーストリテイリング・柳井正会長兼社長9件(ユニクロが看板商品値上げ・フリース一気に1000円高くなど)、第7位・サントリービール・西田英一郎社長7件(サントリー発表・ビール自分好みの濃さになど)、第8位・SMBC日興証券・近藤雄一郎社長7件(SMBC日興証券・信頼回復が課題など)、第9位・おやつカンパニー・手島文雄代表取締役社長6件(ベビースターラーメン米国進出!など)、第10位・オザキフラワーパーク・尾崎明弘社長6件(都会に密林!?“巨大”園芸店のウラ側など)。

 

 

●テレビの窓

「NTT3万人をテレワークに」

TTでは去年、従業員の働き方について、原則テレワークに切り替え、転勤や単身赴任も廃止する方針を打ち出していたが、7月から制度を大きく見直す。これまではオフィス勤務が基本で、テレワークは申請が必要だったが、今後、勤務場所は自宅を基本とし、オフィスに出社する場合は「出張扱い」にするというルールを導入する。居住地に関する制限もなくし、国内であればどこに住んでもいいほか、交通費は一律の上限を設けず、航空機を使った出社も認める。地方の出身で東京に単身赴任をしている従業員の場合は、地元で働きながら家族と一緒に生活することができるとしている。会社はグループの主要会社の中でテレワークができる部署を選び、まずは3万人程度を対象にルールを適用した上で順次、拡大させる考え。自由な働き方で従業員の満足度をあげ、優秀な人材の獲得につなげるねらいもある。働き方を抜本的に変える巨大企業グループの動きは、ほかの企業にも影響を与えそうである(NHK)。原則テレワークの企業は増加しつつあり、メルカリは去年9月から出社の有無や、働く場所などを社員が選択できる制度を開始した。ヤフージャパンも今年4月から全社員が日本全国どこにでも居住可能と制度を変更している(TBS)。

 

JCC株式会社