テレビ報道に見る産業・経済月報
(令和5年8月)
「4月~6月のGDP+4.8%・3期連続プラス」
今月の特徴は、1.4月~6月のGDP・3期連続プラス、2.急激な金利上昇を避けようとする日銀、3.人手不足の影響、4.処理水放出に対する反発、5.エネルギーの動向となった。
1.4月~6月のGDP・3期連続プラス
内閣府が発表したことし4月から6月までのGDP(国内総生産)の改定値は前の3か月と比べた実質の伸び率が年率換算で+4.8%となった(9/8)。プラスとなった主な要因は、自動車の輸出や外国人旅行者によるインバウンド消費などが伸びたため。今回GDPの伸び自体は市場の予想より高かったが、国内では個人消費がマイナスに転じている。さらに海外では中国などで景気が減速していて、専門家は「先行きは楽観できない」と見ている(NHK)。
2.急激な金利上昇を避けようとする日銀
日銀の植田総裁は22日、総理大臣官邸を訪れ、岸田総理大臣と昼食をともにしながらおよそ1時間にわたって会談した。日銀は先月下旬、大規模な金融緩和策の持続性を高めるため金利操作の運用を見直して一段の長期金利の上昇を容認することを決めたが、植田総裁は岸田総理大臣に政策のねらいについて説明したという(NHK)。日銀がYCC(イールドカーブコントロール)の運用見直しをした後にも関わらず円安が続いている。円安の仕掛けが続くと日銀がさらにYCCを柔軟運用することになり、その結果、金利があがってしまうことも想定される。急激な金利上昇を避けようとする日銀に対し為替市場が円売りを仕掛ける。この先、債券市場が織り込んでいないような金利上昇になる可能性がある(テレ東)。
全日空や日本航空など航空関係の50社が人手不足に対応するため、新たな業界団体を立ち上げた。業界では手荷物の積み込みや航空機の誘導など、地上業務の人員が不足していて、企業の枠を超えて業務の効率化や賃金の引き上げを議論するという(テレ東)。アフターコロナで人手不足に悩んでいる飲食業界は、人材を確保するため高い時給をひとつのアピールポイントにしている。今後は海外での展開を見据え、時給を世界水準となる2000円に合わせていくとしている(日テレ)。厚生労働省は人手不足に苦しむ企業を支援しようと省内に新たに専門の部署を設置し、ハローワークの仲介機能を拡大させるなど、人手不足への対策を大幅に強化する方針を固めた。民間の研究機関は2040年には日本全体で不足する働き手の数が1000万人を超えると試算している(NHK)。
4.処理水放出に対する反発
中国メディアによると、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が始まった24日以降、東京や大阪行き航空券の検索数が、23日までの検索数に比べ半減したという(テレ朝)。水産会社の店の看板も6月にはあった日本料理を意味する“日”の字が消え、中国・蘇州の日本風の街の看板には「日本の食材は使いません」と書かれている。中国のSNSでは日本の海鮮に「核海鮮」との呼び名がつけられ、更に日本の化粧品ボイコットの動きも広がっていた。千葉・木更津市内のホテル「パプリカホテルです」にも中国からの嫌がらせ電話があった(日テレ)。セブン&アイホールディングスなど小売り大手は、24日以降に東京電力福島第一原子力発電所の処理水が海洋放出された後も福島県産水産物の販売を続ける。セブン&アイ傘下のイトーヨーカ堂は23日、処理水の放出決定を受けて東日本大震災で被災した生産者を応援していくとし、福島県産の販売を続ける考えを示した。イオンは22日、関東圏などの総合スーパーで福島県産を継続販売すると発表。同時に、放射性物質、トリチウムの含有量について国際的な基準より厳しい自主検査を実施し、サイトで結果を公開する方針を明らかにした。販売継続で風評被害を防ぎつつ、フェアを通じて需要を喚起する動きも広がっている(テレ東)。
5.エネルギーの動向
7日すかいらーくホールディングスが公開したのは太陽光など再生可能エネルギーだけで運営するガストの新店舗。店舗で使用する電気の3割を太陽光でまかない、残りも実質CO2排出ゼロの電力を購入し再エネ100%での運営を目指す。コンビニ業界でもセブン-イレブンが今年6月、太陽光パネルや蓄電池を備えた新店舗を公開するなど、脱炭素に向けた取り組みが進んでいる(TBS)。
●新潮流
「最新鋭衛星とスマホが直接通信・空が見えればどこにもつながる」
KDDIはスペースXが開発した最新鋭の人工衛星とスマートフォンを直接つなぐサービス「スターリンク」を2024年から始めると発表した。高度550キロという低軌道かつ最大の衛星群を活用することで、これまでつながらなかった離島や山間部でも携帯がつながるようになる。実はKDDIは2021年からスペースXと協業していて、そこには衛星の電波を中継する専用アンテナが必要だった。しかし、新たなサービスでは専用アンテナも、特別な設備もなしにどこでも通信が行えるようになる。これまでNTTドコモやソフトバンクとは人口に対して携帯がいかに使えるかの人口カバー率で競い合ってきたが、いずれも99.9%を超え、頭打ちになっていた。その一方、日本の面積でみると、山間部や島々も多いため、6割程度しかつながっていないのが実情だった。KDDIは今回のサービスで、そのカバー率をできるだけ増やしていきたいとしている。まずはショートメッセージの送受信からはじめ、データ通信にも順次対応していくという。KDDI・高橋誠社長は「新たな業務提携をスペースXとすることになった。日本のどこにいてもスマホが繋がるようにしていきたい。例えば災害時にも非常に使いやすくなるし、レジャーであるとか特別な体験を実現できる空間でも使える。今回の提携を先んじてやることで大きな差別化のポイントになる。ビジネス面でもプラスになっていく」と話した(テレ東)。
●注目点
「そごう西武スト決行へ・西武池袋本店31日全館休業」
そごう西武の労働組合が31日ストライキを行うことを決めた。これを受け西武池袋本店は31日に全館休業する。百貨店のストライキは61年ぶりとなる異例の事態。きっかけは親会社による売却計画。去年11月、親会社のセブン&アイホールディングスは赤字が続くそごう西武について海外投資ファンドに売却することを決定したが、この海外投資ファンドと連携しているのが家電量販店のヨドバシホールディングス。西武池袋本店を含む3店舗の中に出店を計画している。しかし、組合側は計画が実現すればデパートの売り場面積が減るため、百貨店の従業員の雇用が減ると反発し、調整が難航している。80年以上にわたって池袋を代表してきた百貨店の一つ、西武池袋本店。そごう西武の売り上げの3割以上を担う旗艦店で1日に来店する客は10万人から20万人。交通の便が良いことなどから都内だけでなく埼玉などからも多くの客が訪れている。また、家電量販店が入ることで百貨店が変わってしまうのではとの戸惑いの声もある。ストライキによる休業は31日だけの予定で、西武池袋本店の組合員およそ900人が参加する(日テレ)。
●8月のランキング(企業別テレビ報道CM価値換算一覧全国版より)
「第1位・オリエンタルランド、第2位・ローソン、第3位・三井不動産」
2023年8月度のテレビ報道CM価値換算ランキングでは、71億4298万円で第1位に「オリエンタルランド」が輝いた。具体的には、「東京ディズニーシー・新エリア・総投資額は約3200億円!?」「びしょ濡れMAX&夏限定メニュー・今年が初・ダッフィーたち大集合!!」等によるものであった。第2位は「超一流スイーツ職人がジャッジ!ローソン従業員 イチ押しスイーツTOP10」等の報道で、「ローソン」となった。第3位は「東京ドームシティ。今年リニューアル!話題のフードエリア」などの報道で「三井不動産」。第4位は「渋谷の新名店・道玄坂通・ドンキホーテ新業態・ドミセ・その魅力は?」などの報道で、「パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」となった。
第5位は「8月10日はイトーヨーカドーの日」などの報道で「セブン&アイ・ホールディングス」、第6位は「東京ソラマチでカラーコーデ対決」などの報道で「東武鉄道」、第7位は「河口湖・富士急ハイランド・ド迫力の水飛沫!クールジャッパーン」などの報道で「富士急行」、第8位は「業務スーパーで出口調査」などの報道で、「神戸物産」となった。第9位は「ジョイフル本田・千葉ニュータウン店で忖度なしの本音ショッピング」などの報道で「ジョイフル本田」、第10位は「北陸新幹線・金沢~敦賀・来年3月16日開業」などの報道で「東日本旅客鉄道」となった。
●8月の人物ランキング
「第1位・ジャニーズ事務所・藤島ジュリー景子社長、第2位・セブン&アイホールディングス・井阪隆一社長、第3位・東京電力・小早川智明社長」
第1位・ジャニーズ事務所・藤島ジュリー景子社長110件(ジャニーズ事務所・藤島社長の処遇は?など)、第2位・セブン&アイホールディングス・井阪隆一社長59件(セブン&アイ・売却後の事業計画説明など)、第3位・東京電力・小早川智明社長55件(西村経産相・東電会長らと会談・事業者に寄り添う対応をなど)、第4位・アキダイ・秋葉弘道社長35件(猛暑で夏野菜の価格どうなる?など)、第5位・楽天グループ・三木谷浩史会長兼社長23件(楽天・巨額赤字も三木谷社長・強気のワケなど)、第6位・損害保険ジャパン・白川儀一社長23件(損保ジャパン取り引き再開・ビッグモーター“新ビジネスを”など)、第7位・日銀・植田和男総裁21件(金融政策等意見交換・日銀植田総裁・岸田総理と会談など)、第8位・コクヨ・黒田英邦社長12件(失敗を怖れない!老舗文具メーカー・あくなき挑戦など)、第9位・ソフトバンクグループ・孫正義会長兼社長11件(ソフトバンク傘下・時価8.7兆円か・英国アーム・米国ナスダック上場申請など)、第10位・メタ・マークザッカーバーグCEO10件(マスクvsザッカーバーグ・因縁の対決・決着の行方は?など)。
●テレビの窓
ソフトバンクグループ傘下の英国の半導体設計大手アームが米国のナスダック市場に上場を申請した。アームは主要な半導体メーカーに設計情報を提供し、世界のスマートフォンの9割以上に使われている。上場時の時価総額は、最大700億ドル(およそ10兆円)とみられ、今年最大の上場となる見通し。ソフトバンクグループがアームの買収を発表したのは2016年。総額は、およそ3兆3000億円に達したがその後、グループの業績が悪化したため、米国の半導体大手、エヌビディアに最大400億ドルで売却する計画も浮上したものの、半導体業界の競争力に影響力が出る懸念から、米国や英国などの反対を受けて断念し、ハイテク株中心であるナスダック市場に上場させる方針に転換していた。ソフトバンクグループは2023年3月期の決算で9701億円もの最終赤字を計上した。立教大学ビジネススクール・田中道昭教授は「財務戦略上いろいろな手が打てる。反転攻勢に向けてアームを上場させることで上場株式を担保とした資金調達をしてAIに投資していこうという狙いがあるのではないか」と分析した。解説キャスター・滝田洋一氏は「アームが上場した際にどんな出資者、株主がいるかというとアップル、サムスン、エヌビディア、インテル。アームは半導体の設計図の開発では他の追随を許しておらず、半導体メーカーはアームの設計図を基にして製品を作っている。それほどアームは欠かせない存在。バイデン政権は仲間の国々と半導体連合を作ろうとしているが、英国企業であるアームが米国を舞台にその流れに乗っかろうとしている」と語った(テレ東)。
JCC株式会社